医者の選び方

心身障害児総合医療療育センター・センター長 坂口 亮

はじめに

 坂口先生(写真右)


 OIの赤ちゃんを授かった若いお母さんから、「どこの医師に診て貰ったら良いか?」とか「OIの専門医は?」などという質問を良く受けます。返事によっては、赤ちゃんの一生を左右するかも知れない重大な問題です。いい加減なことも言えず、いつも困っていました。

 実際、骨形成不全症の人たちは「骨折をしたときは整形外科へ」「歯の調子が悪いときは歯科へ」「耳鳴りがすれば耳鼻咽喉科へ」等々…色々な診療科目を受診しなければなりません。それぞれの専門分野での治療経験・知識を持たれた医師の方は、大勢いらっしゃいますが、骨形成不全症の専門医や医療面全てを対応して貰える医療機関はありません。
広く浅く全体的な情報だったら、もしかすると私たちの方が知っているかも…

 過去の医療は「医者の天下」だった時代もありますが、現在の医療は「患者中心」とされています。主人公は患者であり医師は、良きパ-トナ-と言われます。「お願いします」ではなく「××してください」です。自ら情報を収集し、適切な判断をし、その結果は自己責任です。この様なプロセスを自信を持って行わなければなりません。

 そこで、心身障害児総合医療療育センター・前センター長 坂口 亮先生にご相談したところ、過去に坂口先生が書かれた「子どもたちの整形外科教室 -芽を育てる治療のために- 」という本の中から、該当する個所を抜粋し転載させて戴けることとなりました。 心身障害児総合医療療育センター・前センター長 坂口 亮先生のご厚意に心から感謝申し上げます。

「医者選ぴにコツはあるか」

 現在の保険診療制度は社会に大きな恩恵を施した反面、また少なからぬマイナス面も伴いました。

つまり、数でいえばごく少数なのですが、この制度のおかげで質の悪い医者がりっばにやっていける、いやむしろ栄えてしまう傾向のあることです。

この制度のおかげと書きましたが、御存知のようにこの制度は、技術に対する評価はきわめて軽く、何か注射をした、クスリを出した、あるいはレントゲンをとった、検査をした、ということで収入になるのですから、一口にいって技術の低い、つまりウデの悪い医者にはもってこいのありがたい制度です。

 しかも患者さんのほうで注射をしてほしい、クスリをのみたいとなれば、ますますもって結構なことです。

くり返していいますが、このような医者はごく一部なのです。

しかしよく繁昌する・・・・・・。つい患者さんの知識程度を疑ってみたくもなります。

あるいはこういうことで、長い間、ニセ医者と知らずにかかっていた、というような事態も生まれるのかもしれません。

ところがです。われわれの医者の側からみると、はがゆくて仕方ないこのようなことも、ー般の方にはたいへん難しいことだということに気づきました。

それは、私がひとりでいい調子になってこのような話をしていましたら、ある方から「われわれは心からよい先生にかかりたい。しかしその良い悪いを知る方法がない。どのようにしたらよいのか、良医か悪医か見分ける方法を教えてほしい」と質間され、いざ答えるとなるとなかなか容易でなく、たいへん苦労したからです。

おかしな治療に対してわわれわれなら、変だな、と直観的に思いますが、それを素人の方に求めるのは無理なようです。

 最近は家庭医学の本や雑誌などで、医学評論家の先生方がやはりこの間題を扱い医者のかかり方、選び方というような題で、いろいろ心得を述ぺておられます。

それぞれによく言いつくして、うまく書けていると思いますが実際にはなかなか難しいことです。

私に何がいえるか、前記の質間に難渋し、そして考え出した答えに、後からまた補足して一応まとまった考えは次のようなものです。

「まずは半信半疑で」

 まずはじめて医者にかかるときは、半信半疑、つまり半分は不信の感をもってよいと思います。

一般の方は、医者ならばだれでも同しだろうという素朴な考え方と、また病める者、傷つける者としての弱味からか、無条件に医者を信じてしまう傾向があります。

 このことは病気を治す上では大事なことですが、私としては、少しタイミングをずらし、医者とのつき合いができてからにしてほしいと思います。

まことに残念なことですが、現状ではたまに危険な医者がいることを知らなくてはなりません。

はじめての診察は、医者とのお見合いともいえるものです。

素人の眼からは難しいことであっても、相手の知識、技術の程度、人柄などをそれとなく観察してくだざい。

それには病気の診断、治療法、その見通しなどについてよく説明してもらうとよいでしょう。

 明冶、大正の頃のお医者様は、患者が、診断や治療のことをたずねたりすると、よく怒りました。

りっばな見識ではありましたが、もう時代は変わりました。

世のお母ざん方は、テレビや新聞・雑誌などによりかなりの医学知識を得ておられます。

 なまじ知れば、不安・心配がつきまとうもので、それをへらすなり、なくすなりしてくれるのが医者の役目だと思います。

ですからお母さん方は、医学的な難しいことはもちろん限界がありますが、ー般的な常識的なレペルでの診断のこと、治療のことは積極的に聞かれたらよいでしょう。

そこに医者との人間関係も生まれ、お互いどうしよく通じ合うものがあれば、それからは医者に対し絶対的な信頼を寄せてください。

「治療について納得がいくまで聞く」

 一般的、常識的なレペルでの質問・・・・・・・・ここで私は、多少の当惑を感します。具体的には難しいのです。

私としては、お母さん方が子どもさんの治療について納得がいくかどうか、よく納得がいくまで遠慮なくお聞きくださいといいたいのです。

 診断についてよく理解できましたら、つぎは検査とか治療の上で、それがどういう意味をもって行われるのか、ぜひやらねばならないことなのか、もしやらないですませてしまうとしたら・・・・・・

これらのことについてたずねられたらよいでしょう。

だいたい、治療操作とか検査は、尿検査などは別として、多かれ少なかれ苦痛を伴うもので、その苦痛を意義あらしめるような結果が得られるのでなげればなりません。

そのへんのところをよく説明してもらってくだざい。

 医者も、明治ならず現代人なら喜んで説明してくれるはずです。

親によく納得してもらい、その理解、協力があれば治療はずっとやりやすいのですから。

ただし、これも今の健康保険制度がからんでくるのですが、大ぜいの患者さんが押しかけて、それ注射だ、投薬だとそのほうに忙殺されてしまうと、説明がなおざりにされてしまいます。

質間に対しうるさそうな態度を示したり、いい加減な答え、つまり前後が矛盾してしまうような筋が一貫していない答えしかできないような医者は、警戒してよいと思います。

 これは単に、口数の少ない多いという間題ではありません。知識の程度や人柄が反映してくるものですが、その判断は素人の方には難しいでしょうか?

たとえば、碁や将棋のようなものでも、名人、高段者は素人の質間に対し、それがたとえ愚問であっても、親切に説明してくれるものです。

「ウマの合う医者」

 ある医学評諭家は、患者と医者はウマが合わなくてはダメだと書いていました。たしかにその通りで、名医かならずしも万人に例外なく名医であるとは限りません。

そこが人間社会の面白いところでもありましょう。

 ところで、そうやってはじめての接触で、質間、答えの対話を通してしだいに密接な人間関係が生まれるにしたがって、自然の流れで全幅の信頼を寄せても間違いはないようになります。

初対面のときは半信半疑程度の気持ちがむしろ望ましいのですが、少しおつき合いしても信頼の念が出てこないようなら、あまり深入りしないうちに去るほうがいいでしょう。

疑いの気持ちをもったまま医者にかかるぺきではありません。

こういうことのないよう、理想をいえば、初対面の段階の前に、かなり信頼のおける先生だという調べがついていることが望ましいことです。

知り合いの経験者に聞かれたり、また何科にせよ医者の知り合いがあれば、いろいろ参考になる知識を授けてもらえましょう。

「苦痛を与える医者は危険」

今までの話は一般的な話でしたが、最後に私の属する整形外科について具体的な問題を述ぺてみましょう。

 子どもの骨折は大多数は手術しないで治るものです。

例外として、少しばかりどうしても手術でなくては治らない、後に障害を残す骨折があります。

切らなくていいものを切られたり、またその逆のことがあっては困ります。

骨折の治療は、十分に経験のある専門の整形外科医で治療してもらってください。

 最近は斜頸の治療としてマッサージに精出して通院することは疑問視されています。

あまり熱心にマッサージに通うことを命ずる先生は少々古いと判断してよいでしょう。大きな間題ではありませんが・・・・。

先天性股関節脱臼は20年ほど前までとは治療法がすっかり変わりました。

現在はリーメンビューゲルという簡単な吊り紐であしを吊っておくだげで大部分がよくなり、昔のようにギプスであしを固めてしまうようなことはほとんどなくなりました。

まれに補助的方法として治療コースの中におりこむことがあるといった程度です。

非常に楽な治療となり、時代の進歩を謳歌しているそのときに、昔ながらの整復やギプス固定をやるような医者は、古くさいし、また間違っていると思います。警戒してください。

また、リーメンビューゲルを使って進歩をよく採り入れているようでありながら、かたわらマッサージなどに通わせている医者もありますが、このマッサージはナンセンスで、やはり古い先生といってよいと思います。

「楽にしてあげることがよい治療」

 子どもの治療は苦痛の多いものであってはいけません。

たいていは、楽にしてあげることがよい治療といってもよいほどで、親御さんの気持ちによくかなうものです。

子どもがあまりに苦しむときは、どこかいけないところがあるもので、治療のためには仕方ないさ、とかたづけるぺきではありません。

治療のためと称して子どもに大きな負担、苦痛を与える医者は危険です。疑問を持ってよいでしょう。