骨形成不全症V型の原因遺伝子 IFITM5を発見1)

[概要]

骨形成不全症 (OI: osteogenesis imperfecta) は臨床的に7つの型 (I−VII型)に分類されている。このうちV型は、前腕の骨間膜の骨化と過剰な仮骨を特徴とする。今回、V型OIで原因遺伝子が発見された。見つかった遺伝子はIFITM5 (interferon-induced transmembrane protein 5)という機能未知の遺伝子であった。

[本文]

OIは、骨の脆さ、脊柱と四肢の変形、易骨折性などを特徴とする一群の疾患である。単なる骨量減少から周産期死まで、幅広い重症度を示す。

SillenceはOIを体系的にI型、II型、III型、IV型の4つの型に分類した。その後の研究により、さらにV型、VI型、VII型が分類に加えられた。

OIのうちのおおよそ90%はI–IV型のいずれかで、ほとんどが常染色体優性の遺伝形式を取る。これらの原因遺伝子はCOL1A1、またはCOL1A2であることが1980年代から明らかになっていた。

残りの10%のOIは、常染色体劣性の遺伝形式を取ることはわかっていたが、その原因遺伝子は永らく謎であった。

しかし近年の研究で、SERPINF1がVI型の、CRTAPがVII型の原因遺伝子であることがわかった。さらに、常染色体劣性遺伝の OI の原因遺伝子として、LEPRE1PPIBSERPINH1FKBP10が発見されている。

 V型OIは常染色体優性遺伝で、青色強膜も歯牙形成不全もなく、仮骨の過剰形成、前腕の骨間膜の石灰化、橈骨の骨頭の脱臼、成長軟骨下の骨幹端の不透過線などの際立った放射線学的特徴をもつ疾患である。しかし、その原因となる遺伝子変異は発見されていなかった。

 V型OIの原因の解明のために、本論文の著者らは、3つの家系の13人と孤発例の6人、計19人の韓国人患者を集めた。

これらの患者の身長は、標準範囲内(-2~+2 SD)から、顕著な低身長までばらつきがあった。骨折回数についても、多くの患者は10回以下だが、3人は20~30回の骨折をしていた。身体的機能障害も、障害のない人から車いすの人までの幅広かった。

だがすべての人が前腕骨骨間膜の石灰化を示し、8歳の少年を除く20歳以上のすべての人で、橈骨骨頭の脱臼が観察された 。

著者らは4世代家系を用いてゲノムワイド・連鎖解析を行ない、疾患の遺伝子座を決定した。そして、遺伝子座の中で、患者に特有の遺伝子の変異を探した所、IFITM5遺伝子におけるヘテロ接合変化を発見した。

IFITM5遺伝子はインターフェロン誘導の膜内外の遺伝子ファミリーのメンバーでその機能はよく解明されていないが、骨形成過程に関係すると示唆されている。そのmRNAとタンパク質の発現は、骨格組織に限られている。

著者らのマウスによる実験の結果、この遺伝子を過剰発現させたマウスは骨化が用量依存的に増加し、その逆に遺伝子を欠損させたマウス(ノックアウトマウス)は、骨化の低下を引き起こした。

しかしながら、実験では期待されたような人の患者のような重大な表現型を示さなかった。遺伝子が2つとも欠損したIfitm5-/-マウスは遺伝子が1つだけ欠損したIfitm5+/-マウスより小さく、長管骨が彎曲をしたが、Ifitm5-/-マウスとIfitm5+/-マウスとの間の骨形態計測のパラメーターに違いはなかった。従って、単純なIFITM5の機能欠損では、V型OIの表現型を説明することができない。

この研究で同定された変異は、それがUTRに生じるという点が特徴である。当初、コーディングとスプライシング領域のみ注意を払ったので、著者らは、候補遺伝子の連鎖解析での検索で、この変化を見逃した。

9組の無関係な家系の罹患者がみなIFITM5の中の同じ変化を共有するという点は特徴的で、問題の変異がIFITM5の機能に特異的な効果を持っていることを示唆する。

骨量減少と異所性石灰化、過剰な仮骨形成というV型OIの一見矛盾する表現型からして、c.-14C>T 変異の影響は組織によるのかもしれない。

変異IFITM5は、骨量減少およびその後の骨脆弱性からして、骨皮質と海綿骨の正常な骨形成を邪魔するように見える。しかしそれは、長管骨の骨膜下に異所性石灰化を一貫して生じる。過剰な仮骨形成は骨折治癒機転中の骨形成の過剰な反応で、外傷後の炎症反応によって恐らく刺激される。成長軟骨下の放射線不透過性のラインは、骨減少のある長管骨の中で逆説的である。著者らは、N末端に5つの追加のアミノ酸を持っている変異IFITM5は、骨形成の調節異常を起こすと仮定している。

すべての患者のIFITM5で c.-14C>Tが一貫して存在していたこと、IFITM5発現およびタンパク質の位置特定の限定された存在パターンおよび骨形成への関与で、著者らはこの特異的突然変異がV型OIの原因であると結論づける。この変化がその病気に結びつくメカニズムは、恐らく骨形成の調節異常と関係がある。ノック・イン・マウスでの特異的突然変異を備えた詳細検討が、この変異の病原性のメカニズムを解明し、IFITM5の生理的機能を理解するのを助けるであろう。

文献

1) Cho TJ, Lee KE, Lee SK, Song SJ, Kim KJ, Jeon D, Lee G, Kim HN, Lee HR, Eom HH, Lee ZH, Kim OH, Park WY, Park SS, Ikegawa S, Yoo WJ, Choi IH, Kim JW.

A single recurrent mutation in the 5'-UTR of IFITM5 causes osteogenesis imperfecta type V. Am J Hum Genet 91(2):343-8, 2012.

謝辞

 本記事は、池川志郎先生にチェックを会員の河村進吾氏の翻訳により実現いたしました。

心から感謝申し上げます。

数年前、池川先生に「Ⅴ型の児のママさんが、情報がないことで辛い思いをされています」と相談したことがありました。その後、大震災やヘル・ソサ賞など色々な出来事があり、そのままになっていました。

昨年の夏頃に息子から「この前、池川先生からOIに関する論文を訳して、お父さんに渡す様に言われたから、訳して池川先生にチェックして貰うから待ってて」との話しがありました。「どんな論文?」と聞くと「Ⅴ型のことみたい」との答え、私が「本当に!」と喜ぶ様子を見て「Ⅳ型じゃないよ。Ⅴ型だよ。知ってるの?」と言うので「肘の関節が骨化して動かなくなるタイプだろ?」と言うと「本当だ。骨化するって書いてある」と言ってました(エヘン!)

 後日、息子に「もしかして先生はこの研究者だよね?」と聞くと笑顔で頷いていました。

池川先生におかれましては、私の相談事に対してこの様な形でご回答?頂き、ありがとうございます。m(__)m 今後のご活躍と共にご自愛くださいます様、祈念しています。